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札幌地方裁判所 平成5年(わ)97号 判決 1993年9月28日

被告人

本店の所在地

札幌市中央区南一一条西九丁目七三五番地

道央観光株式会社

(右代表者代表取締役 武田進)

本籍

札幌市中央区南二〇条西八丁目六一一番地四

住居

同市白石区北郷六条九丁目七番一四号

会社役員

齋藤敬一

昭和二五年一二月八日生

(検察官 西川克行)

(主任弁護人 諏訪裕滋、弁護人 永宮克彦)

主文

被告人道央観光株式会社を罰金一億五〇〇〇万円に、

被告人齋藤敬一を懲役三年にそれぞれ処する。

被告人齋藤敬一に対し、この裁判の確定した日から

五年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人道央観光株式会社は、札幌市中央区南一一条西九丁目七三五番地に本店を置き、不動産賃貸管理業等を目的とするものであり、被告人齋藤敬一は、平成四年五月二九日まで同会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人齋藤は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、同会社の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が一四億三三四一万〇〇二七円であり、これに対する法人税額が五億三三四一万二八〇〇円であるのに、固定資産売却益の一部を除外するなどの方法によりその所得を秘匿したうえ、同年五月三〇日、同市西区発寒四条一丁目七番一号所在の所轄札幌西税務署において、同税務署長に対し、同会社の右事業年度における所得金額が二億八九八万一三八五円であり、これに対する法人税額が七四二五万一九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納付期限である同月三一日を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額との差差額四億五九一六万〇九〇〇円の法人税を免れた。

(証拠)

一  被告人齋藤敬一の公判供述

一  第一回公判調書中の被告人会社代表者武田進、被告人齋藤敬一の各供述部分

一  被告人齋藤敬一の検察官調書(乙1、2)、大蔵事務官調書(乙4ないし26)

一  河村有泰(甲33)、村谷俊治(甲34)、大磯昇(甲35)、田村忠彦(甲36)、笹田和夫(甲37)、遠藤恵一(甲38、39)、齋藤澄子(甲40)、齋藤一英(甲41)の検察官調書

一  武田進(甲42)、旭敏雄(甲43)、水野弘作(甲44)、鳥瀬欽司(甲45)、竹森義雄(甲46)、船橋富吉(甲47)、奥田周一(甲48)、佐野正治(甲49)、坂田文正(甲50)、下川克喜(甲51)、松山繁治(甲52)、石川喜代春(甲53)の大蔵事務官調書

一  山田佐以子の上申書(甲25)

一  小島卓子(甲26)、山村義昭(甲27)、服部美信(甲28)、湯谷偉男(甲29)、廣田宏二(甲30)、小川功(甲31)、遠間昌平(甲32)の答申書

一  搜査報告書(甲2)

一  脱税額計算書説明資料(甲5)

一  調査事績報告書(甲6ないし16、20ないし22)

一  写真撮影てん末書(甲17ないし19)

一  電話料金受領状況に対する回答書(甲24)

一  修正申告書謄本(甲23)

一  登記簿謄本(甲1)

一  領置てん末書(甲3)

一  道央観光株式会社法人税決議書綴一綴(平成五年押第四一号の1)

(法令の適用)

被告人会社について

罰条 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

被告人齋藤について

罰条 法人税法一五九条一項

刑種の選択 懲役刑選択

刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、不動産賃貸管理業等を目的とする被告人会社の代表取締役であつた被告人齋藤が、被告人会社所有の不動産を売却した際、国土法上の価格規制を潛脱して私的に動かせる簿外資産等を作出するため、同会社の平成三年三月期の事業年度における法人税を免れようと考え、右不動産売却益の一部について、いわゆる赤字の関連会社に仮装の賃借権を設定して立ち退き料として帰属させ、税務調査逃れのため立ち退き料の即決和解を経たほか、自他名義の架空借受金や裏契約による上乗せ金として処理するなどの不正な方法により、同会社の所得を秘匿し、四億五九一六万円余の法人税を免れたという事案である。

その動機において酌むべきものはなく、計画的であるうえ、手口も税法その他会計知識等を悪用するなど巧妙であり、脱税額は道内屈指を極めているのはもとより、ほ脱率も約八六パーセントにも及ぶのであって、その犯情は悪質であり、加えて、右簿外資産の使途も、被告人齋藤が私物化している関連会社の社宅名義の豪邸の建設借入金の一部に充当されるなど芳しくなく、その刑事責任は重い。

しかしながら、本件益金隠しは、一事業年度内の一固定資産に絡む単発のものに過ぎず、いわゆるバブル経済による地価の異常高騰を背景として脱税額が多額となった側面は否定できないこと、被告人会社は、国税局に指導された修正申告に従って法人税の本税、道民税、市民税、事業税、重加算税合計八億一〇〇〇万円余を既に納税し、引き続き完納に向けて努力しており、今後は経理体制を充実して納税義務を果たしていく姿勢も示していること、被告人齋藤は、税務調査後、責任をとって被告人会社の代表者を退き、税務調査が進むにつれて本件犯行を素直に認めるなど反省の情を示しており、また、本件犯行により逮捕・勾留されたほか、本件脱税が新聞報道されるなど相応の社会的制裁を受けていること、被告人齋藤には前科前歴がなく、その経営手腕を頼りとする従業員や養うべき家族もあることなど被告人らのために有利な、あるいは同情すべき事情も認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮して主文のとおり刑を量定した次第である。

(求刑 被告人会社につき罰金一億五千万円、被告人齋藤につき懲役三年)

(裁判所裁判官 中野久利 裁判官 遠藤和正 裁判官 沼田幸雄)

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